2021年9月7日、甲府地方気象台は、「富士山の初冠雪を観測」と発表しました。ところがその後、9月22日に「富士山の初冠雪を見直し」と発表しました。
- なぜ見直すことになったのか?
- そもそも「富士山の初冠雪」の定義は何か?
- 富士山と気象のあれこれ
について学んでいきましょう。
「富士山の初冠雪」の定義
甲府地方気象台のホームページには以下のように書かれていました。
富士山特別地域気象観測所の日平均気温の最高値が出現した日以降に、初めて冠雪を観測した日を初冠雪としています。 本年においては、8月4日に日平均気温の最高値が出現したものとし、9月7日に初冠雪を観測しましたが、その後、9月20日に日平均気温の最高値が更新されたため、9月7日の初冠雪は見直しとなりました。
甲府地方気象台
ここに定義についても書かれていますね。
富士山の初冠雪とは、「富士山特別地域気象観測所の日平均気温の最高値が出現した日以降に、初めて冠雪を観測した日」となっています。
ここで使われている語句について調べてみましょう。
富士山特別地域気象観測所とは
19世紀末から世界各国が高層大気への関心を高める中で、日本でも高山での気象観測が計画されるようになりました。その中で注目されたのが富士山です。富士山は高度が高く、独立峰であるため、直接高層の大気を捉える事ができると考えられました。
- 1880年 メンデンホール、チャップリン、田中舘愛橘らにより、8月3日から4日間、富士山頂で初めて気象観測が行われた
- 1895年 野中至氏は私財を投げ打って富士山に施設を建造。10月1日から滞在し観測を開始したが、当時の資材・技術では観測は過酷であり、3ヶ月で挫折。
- 1930年 厳寒期の富士山頂での気象観測に成功
- 1932年 中央気象台が富士山頂に「中央気象台臨時富士山頂観測所」を設置
- 1936年 剣ケ峰に移転し、「富士山頂観測所」となった
- 1949年 「富士山観測所」に改称
- 1959年 「富士山測候所」に改称
- 1963年 本州を直撃する台風の早期探知目的に、富士山頂に気象レーダーを設置することが決定
- 1964年 世界最大級の探知範囲(半径800km)を誇る気象レーダーが完成。運用開始(風向・風速・気温などの地上気象観測、レーダー気象観測などが主な業務)
- 1999年 気象衛星「ひまわり」の打ち上げや、長野レーダー・静岡レーダーが設置されるようになった。山頂での気象観測の必要性は低下したと判断され、11月1日、レーダー観測を停止
- 2004年 観測装置が発達したことにより、無人化。「富士山特別地域気象観測所」に改称
現在は自動測定器により、気温、気圧、夏季日照時間の気象観測を継続しています。
なお、施設は「富士山測候所を活用する会」により、研究利用されています。
貴重な国民的財産である富士山測候所を、学術や教育等の分野において、広く国民に開かれた施設として有効に活用し、一般市民への普及啓発活動を行います。また同時に、自立的かつ安全に測候所の維持管理が行える体制整備を行い、その成果を社会に還元するべく活動します。
NPO法人 富士山測候所を活用する会 行動理念
ちなみに、廃止された富士山の気象レーダードームは、「富士山レーダードーム館」として麓に移設されています。気象レーダーの実物が公開されており、動いている様子を見ることができるようです。また、富士山山頂の環境が体感できる寒さ体験コーナーなどもあり、楽しみながら学ぶ場となっているようです。
日平均気温とは
日平均気温とは、1日の平均気温のことです。日本では、1時から24時までの毎正時(◯時ちょうど)の合計24回の平均で求められます。
ちなみに、最高・最低気温の考え方は、実測値(過去)と予報(未来)で、区切る時間帯が違います。
■実測値・記録に残る最高・最低気温
「午前0時から24時間までの期間中の最高温度・最低温度」
■予想するときの最高・最低気温
- 「午前0時から午前9時までの期間中の最低気温」
- 「午前9時から午後18時までの期間中の最高気温」
として、対象時間帯を区切っています。
どこで「冠雪を観測」するのか
気象庁では、気象現象として約80の山を対象に「初冠雪」を観測しています。麓にある気象台や測候所から対象となる山の頂を眺め見て、山頂が白くなっていることを確認して「初冠雪」としています。
富士山の初冠雪は、甲府地方気象台から目視で観測して評価しています。
そのため、実際に富士山に雪が積もっていても、甲府地方気象台から見えなければ「初冠雪」は観測されません。富士山頂と甲府地方気象台の距離は約40km。この間に雲があるときは、見通しが良くなって視認できるようになるまで「初冠雪」は見送りになります。
また、雪が降っただけで積もっていなければ、初冠雪とは言いません。
過去を振り返ると、平年は10月2日であり、最も遅い記録は2016年の10月26日だそうです。
「富士山の初冠雪を見直し」したのはなぜか
2021年の富士山の平均気温の最高値は、8月4日の9.2℃でした。そして、9月4日に甲府地方気象台から山頂が白くなっていることが確認され、「初冠雪を観測」と発表されました。
しかしその後、9月20日に平均気温の最高値が更新されたのです。
そのため定義上、9月4日の積雪は「初冠雪」とはならず、「初冠雪を見直し」する発表に至りました。珍しいことのようですね。
参考として、8月4日と9月20日の天気図(上:500hPa解析図、下:地上天気図)を添付します。注)比較のため−6℃に赤線を引いています。時間差があります。
日本で初冠雪は、冬の訪れを知らせる指標として用いられているものです。つまりは、夏がしっかり終わり冬がいよいよ始まる、という流れが必要なわけですね。これにそぐうように現代なりに定義されており、今回のように見直しすることになったようです。「まだ夏終わってませんでした−!」という感じですね。
どんなに機械が発達しても、「初冠雪の観測」に最新機器は使われません(定義に当てはめるために温度測定はしてますが)。
「昔の人も、麓から山が白くなるのを見て冬の到来を感じていたんだろうなぁ」と、なんともいえぬ悠久感を与えてくれます。