熱圏は、中間圏界面(約80km)から熱圏界面(変動が大きく300〜600km付近)までの範囲にあります。この熱圏は、高度が上がると気温が上昇するという特徴があります。これは、高度約100km以上には窒素や酸素が電離している状態で存在する層があるからです。この層を電離層といいます。
ここでは、「電離」と「電離層」について学んでいきましょう。
電離とは
原子というのは、陽子、原子核、電子からなります。
- 陽子 … 正の電気を帯びている
- 原子核… 電気をもたない中性子からなる
- 電子 … 原子核のまわりを運動し、負の電荷を帯びている
この原子に紫外線が当たると、電子が原子核から離れます。これを電離といいます。
このときに紫外線を吸収するので気温が上昇します。そして電子を失った原子は負の電気を失ったことになり、正の電気を帯びます。これをイオン、荷電粒子などといいます。電離のことをイオン化ともいいます。イオンには陽イオンと陰イオンがあります。
大気中での電離は、50kmより上層では、主として宇宙線、太陽からのX線と紫外線によって起きます。波長0.1µm以下の紫外線が主です。下層では、ほかに雨粒の分裂、氷晶の分裂、および風による砂粒子の摩擦のような、かなり局所的な原因で電離が起こることもあります。
電離層の大気組成
窒素と酸素で大気が構成され、水蒸気は存在しません。
つまり電離しているのは、窒素や酸素の分子・原子です。
電離層の特性
気体が電離していなければ、電波は屈折せず素通りし直進できます。一方、気体が電離していると、電波は反射、屈折、散乱、減衰など波動としていろいろな現象を起こすようになります。ここで電離層の特性が生まれます。
地上から発信された電波は、電離層内に侵入すると屈折します。これは、光線が空気中から水中に侵入したときに屈折するのと同じようなものです。
電離層の場合、電波の屈折の度合いは次の2つの要因で決まります。
- 要因① 電子数密度(単位容積中に存在する電子の数)
- 要因② 電波の波長、あるいは周波数
この2つの要因に加え、電波がどのような角度で電離層に入射したかによって、電波の行く末が決まります。電話の入射角によっては、電波の一部が電離層に吸収されたり、屈折して宇宙空間に伝わったり、反射されたりします。
上空ほど電子数密度が増している場合、地上から発射された電波は電離層に入って徐々に屈曲し、再び地上に戻ってくることがありえます。これを電波が全反射したといいます。
要因① 電子数密度が大きい3つの層
上の図は、観測による電子数密度の高度分布を示します。上層ほど宇宙からの紫外線が多いため、電子密度は大きくなります。電子数密度が特に大きい層が3つあり、下から順に、E層、F1層、F2層と呼ばれます。
- F層 150〜500km
- E層 90〜150km
- D層 50〜90km
要因② 電波の波長
電離層による全反射(電波反射)を利用して無線通信が行われています。反射される電波は、層によって異なります。
- F2層 … 短波帯の電波(遠距離通信に適する。国際通信・国際放送などに利用)
- E層 … 中波・短波帯の電波(国内回線程度の中距離通信に利用)
- D層下部 … 長波・短長波帯の電波(中・長距離通信に適する。船舶・航空機の位置測定に利用)
近年では人工衛星と地上を結ぶ宇宙通信が発達し、電離層を透過する高い周波数帯の超短波、マイクロ波が用いられています。
電離層の日内変動・季節変動
電離層は太陽からの放射エネルギーによって形成されるため、日内変動があり、また太陽活動の変化を受けます。
太陽光のない夜間や、日差しが弱い冬の日中は、電離があまり起こりません。層そのものが消失しえます。
- 日中 … D層とE層は日中に顕著で、F層はF1とF2層に分かれます。
- 夜間 … 夜間は太陽からの紫外線の照射がないので、D層はほとんど消失します。F層は強い状態で維持されるものの、F1層とF2層は合体します。
電離層で起こる現象
ここからは、電離層で発生する現象について述べます。
- デリンジャー現象
- オーロラ
デリンジャー現象
以上書いてきたとおり、太陽の紫外線が入射してくるために電離層は存在します。したがって、太陽の活動度に鋭敏に反応し、電離層が変動するのは当然とも言えます。
特に太陽面の爆発(solar flare)が起こるときには、波長が0.1µm以下の紫外線やX線の強度が増加し、E層やD層の電離も増加します。その結果、D層での電波の吸収も増大し、電離層伝播を利用する短波の国際通信が一次的に途絶することも起こりえます。これをデリンジャー(Delinger)現象といいます。
オーロラ
地球磁気圏のなかに捕捉された微粒子(電子や陽子)が空気を構成する気体分子に衝突することにより、気体原子の電子が励起状態(エネルギーの高い状態)になり、その電子がもとの状態に戻る際に発光します。この発光を見ているのがオーロラです。
電離層発見の歴史
今回学んだ電離層は、どうやって発見されたのでしょう?
発見の経緯を別頁でまとめていますので、ぜひご参照ください。
参考文献
① 小倉義光:一般気象学, 第2版補訂版第5刷,東京大学出版社(2019)
② 井田喜明ほか:地球大百科事典(上), 朝倉書店(2019)
③ 中島俊夫:よくわかる気象学第2版,ナツメ社(2016)
④ 山岸米二郎監訳:オックスフォード気象事典,朝倉書店(2005), 新装版(2021)
⑤ NASAホームページ:https://www.youtube.com/watch?v=Vohdz0rzdGs
*別頁「注意書き」をご一読ください
*大気の層の全体像を振り返りたい場合は、別頁「大気の鉛直構造① 概要」をご参照下さい。